イレウスのリスクファクター

医療関係者様向けです

はじめに

 もう、ずいぶん前になります。精神科の入院患者さんの合併症で、肺炎、悪性症候群とならんで、イレウスが多くみられました。そのため、そのイレウスのリスクファクターをケースコントロールスタディで調べてみました。
 2021年12月21日に大日本住友製薬主催のWEBセミナーで山口病院の奥平先生が「栄養精神医学から考える皮膚と腸~腸管を介さない治療戦略」を発表なさいます。その閉会の挨拶をするのですが、そこでちょこっと発表させてもらいたいので、思い出してまとめてみました。

対象と方法

 以下のようになります。5年間でイレウスになった患者さん31人いましたが、2回、3回とイレウスになった方がいましたので、のべ45回のイレウスがみられました。対照群は、2007年4月1日に入院しており、過去にイレウスにならなかった239人です。

 その方々の体重や検査所見、重症度、薬の種類や量を調べました。イレウスの患者さんがイレウスになる直前の薬や検査や体重です。それで、どういう人がイレウスになるのか調べたのです。

結果

 下の表をご覧ください。2群の、性別、平均年齢、治療期間、統合失調症の割合に有意な差がなく、よい対照集団だといえます。

 重症度は、主に陰性症状の指標であり、数字が大きいほど不活発で社会適応度が低いものです。ほとんど外出しないなどです。イレウス群では、不活発で、社会適応度が特に低くなっています。

 抗精神病薬の総力価に、有意な差がありません。多い人にイレウスが生じるというわけではないのです。むしろ、平均値は100mgほどイレウス群で低くなっています。

 抗パーキンソン薬は、抗コリン剤で、腸管の動きを低下させます。イレウス群では抗パーキンソン薬が、使用数、使用率とも有意に多いです。抗精神病薬、定型抗精神病薬、非定型抗精神病薬の量には有意差がなかったので、イレウス群では錐体外路症状を起こしやすい性質を持った人なのかもしれません。

 

イレウス群と対照群の比較

 下剤、体重、検査値

 下の表をご覧ください。イレウス群ではふだん使用している下剤が多いですね。便が出にくいために、刺激性下剤などを多く使っています。ますます、腸の動きが悪くなります。

イレウス群と対照群の比較 その2 血液検査 体重

吸収障害

 腸の機能が悪くなって、排便のために多くの下剤や浣腸を必要とする。その結果、体はどうなっているでしょうか。

 体重は、平均で9kgもイレウス群で低くなっています。中性脂肪も6-7割程度まで減っています。これは、何を意味するかというと、栄養の吸収障害ではないでしょうか。総コリステロールに差がないのは、コレステロールは吸収によるのでなく、肝臓での合成によるからなのでしょう。

イレウス群と対照群の比較図

結論

 抗コリン剤を使用しない治療を追求し続けることが大切。刺激性下剤を使用し続けない。体重や中性脂肪、下剤量などから、吸収障害の程度を見極めよう。腸からの薬剤の吸収も悪いだろうと予測して戦略を考えよう。望ましいのは、安定した薬剤の血中濃度だからだ。大事なことを忘れてました。イレウスの既往があることが最大のリスクファクターです。薬を少々減らしてもだめです。

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