精神疾患と血液検査 悪性症候群2

悪性症候群でのアルブミンの低下

 前の項で、悪性症候群で顕著な血清アルブミンの低下がみられることをお示ししました。久々に自分の論文をながめてみると興味深いことが書かれていました。

 McClainら(1988年)は、頭部外傷患者の低アルブミン血症に注目しました。それは、IL-1が血管内皮細胞障害を導き血管透過性を強めるからとしました。

 アルブミンが血管外へ漏れ出すのです。アルブミンの半減期は20日です。急激なアルブミンの低下を説明するメカニズムが必要でした。IL-1はインターロイキン-1。炎症性サイトカインの一つです。

また、Fleck もIL-6による血管透過性の亢進、アルブミンの減少を報告しました。悪性症候群の急激なアルブミンの低下は、生産の遅延とか異化では、説明がつきません。説明がつくのは、これ、ILの関与でしょう。

 世界のだれも、悪性症候群においてアルブミンが低下することも報告していません。まして、その理由などを考えている人もいないでしょう。悪性症候群の症状の一つに褥瘡を挙げた研究者もアルブミンの低下に気が付いていません。

悪性症候群におけるTTTとZTTの変動

 こんなものに興味を持つ人はほとんどいません。TTTとは、チモール混濁試験、ZTTは、硫酸亜鉛混濁試験です。安価にできる血清蛋白量の測定方法です。どの病院のスクリーニング検査でもよく行われていました。TTTはグロブリン全体量と相関し、ZTTはグロブリンの中でもIgG量と相関します。

 それを13人の悪性症候群で調べてみました。これは、2013年に発表しました。

 どうでしょう。2例の検査所見の経過を示した図です。悪性症候群が始まるとアルブミンは低下し、かなりの時間を経てだいたい悪性症候群発症前の値にもどります。しかし、図2の症例では、もどりが悪く見えます。

 さて、実線でしめしたZTTですが、悪性症候群が始まってから急速に低下し、1週間後くらいに最低になりますね。それから徐々に回復するのですが、なんと悪性症候群のより高くなってしまうのです。驚きではないですか? 面白くないですか?

 なぜ? 前に述べましたが、ZTTは免疫グロブリンIgG量を示しています。つまり、ウイルスが感染したときのように、免疫反応が起こり、抗体が産生されます。しかも、下の表のように、ピークは平均77日とかです。なんと10週間後まで抗体が増え続けるのです! 悪性症候群はだいたい1週間から10日くらいで終わりますが、それからも反応というかダメージというかは数か月も残るのです!

 

IgGの増加

 いやはやすごいですね。想像を超えたこわい病気です。次に、本当に免疫グロブリンが増加しているか、実際にIgGを調べるとこのようになりました。

 下の図のように、悪性症候群になってから徐々にIgGが増加していきます。症例1の何とピークは3か月後です。また、症例2のピークは何と6か月後です。

 上の表のZTTからは、平均77日後だということがわかりますが、中には半年も影響が残る場合があるのです。悪性症候群は、免疫系も含む全身の病気なのです。

本当にとてつもない病気ですね。

IL-6の増加

 さて、これらを導いているのは、サイトカイン、インターロイキン-1やインターロイキン-6などの炎症性サイトカインではないかという研究者がいました。上述したようにアルブミンの低下も、ILで説明がつきます。

 これらのサイトカインが、悪性症候群のときに、活発に放出され、筋肉をこわばらせ、脳神経系に炎症を起こし、無言としたりけいれんを起こしたり、発熱中枢に作用して高熱にしたり、アルブミンを低下させ、褥瘡を作り、自律神経系を通じて発汗を起こしたりするのではないか。

 最近、インターロイキンが民間の病院でも検査に出せるようになりました。2021年体験した女性の悪性症候群の患者さんで、初めてインターロイキン-6を計測してみました。

 上の図どうでしょう?悪性症候群になり、体温は38.2度に上昇。アルブミンは急速に低下しています。白血球も1万を超えています。筋固縮CPK上昇も認められました。各種の悪性症候群の診断基準を満たします。

 IL-6は、上から二番目のグラフの赤の線です。ピークは23.7と急上昇しています。正常値の上限の何倍にもなっています。悪性症候群になる前にはIL-6を調べていないのが残念ですが。

 これから、少なくともこの症例では、IL-6の極端な増加がみられました。悪性症候群の成因にインターロイキンが関与するということが確かめられました。

まとめ

 ILが関与する悪性症候群のメカニズムを考えてみました。今までの検査所見がかなり説明できます。

悪性症候群のメカニズム仮説

 興味を持っていただければ幸いです。