「自傷他害」を深堀する
自傷他害の有無(を判定することは)は、精神保健指定医による措置入院と医療保護入院の判定に重要な意味を持ちます。それが明確にならなければ判定ができません。自傷他害がどういうものなのかをみていきましょう。
○精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第二十八条の二の規定に基づき厚生労働大臣の定める基準 (昭和六十三年四月八日) (厚生省告示第百二十五号) 精神保健法(昭和二十五年・・・)
第一
一 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年・略・)第二十九条第一項の規定に基づく入院(措置入院のこと)に係る精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがある旨の法第十八条第一項の規定により指定された精神保健指定医による判定は、診察を実施した者について、入院させなければその精神障害のために、次の表に示した病状又は状態像により、自殺企図等、自己の生命、身体を害する行為(以下「自傷行為」という。)又は殺人、傷害、暴行、性的問題行動、侮辱、器物破損、強盗、恐喝、窃盗、詐欺、放火、弄火等他の者の生命、身体、貞操、名誉、財産等又は社会的法益等に害を及ぼす行為(以下「他害行為」といい、原則として刑罰法令に触れる程度の行為をいう。)を引き起こすおそれがあると認めた場合に行うものとすること。
ここに、自傷他害行為が定義されている。
二 自傷行為又は他害行為のおそれの認定に当たつては、当該者の既往歴、現病歴及びこれらに関連する事実行為等を考慮するものとすること。
これは、それ以外の事情に配慮しろということではないか。これは、判断に他の要素が入り込む可能性があるし、それを許容してるように思える。「等」という言葉は便利な言葉なのだろうが、あらゆるところで問題だ。等に何を入れていいのかわからず、すべてをあいまいにしている。
最悪な場合を考えてみると、自傷他害を純粋にみるのでなく、この人を入院でみていくのは大変そうだなどの指定医や病院の事情が入らないとは限らない。判定者の感情が入ってしまう可能性がある。
病状又は状態像 | 自傷行為又は他害行為のおそれの認定に関する事項 |
抑うつ状態 | 悲哀感、焦燥感、絶望感等の一般的な抑うつ感情、思考面での集中困難、思考制止、行動面での運動制止等がみられ、これに抑うつ的な内容の錯覚、幻覚、妄想を伴うことがしばしばあることから、このような病状又は状態像にある精神障害者は、自殺念慮、自傷念慮、心中念慮等を抱く結果、自傷行為又は他害行為を行うことがある。 |
そう状態 | 爽快感、易怒的、刺激的な昂揚感等の躁的感情、自我感情の肥大、思考面での観念奔逸、行動面での運動興奮等がみられ、これに躁的な内容の誇大等の妄想を伴うことがしばしばあることから、このような病状又は状態像にある精神障害者は、思考及び運動の抑制が減弱又は欠如し、倣慢不そんな態度が度を超す結果、自傷行為又は他害行為を行うことがある。 |
幻覚妄想状態 | 幻覚、妄想がみられ、これに幻覚、妄想に対する自覚、洞察の欠如を伴うことがしばしばあることから、このような病状又は状態像にある精神障害者は、現実検討能力に欠け、恐慌状態や興奮状態に陥りやすい結果、自傷行為又は他害行為を行うことがある。 |
精神運動興奮状態 | 欲動や意志の昂進又は抑制の減弱がみられ、これに思考の滅裂傾向を伴うことがしばしばあることから、このような病状又は状態像にある精神障害者は、多動興奮状態に陥りやすい結果、突発的に自傷行為又は他害行為を行うことがある。 |
昏迷状態 | 意志発動性が強く抑制されているために、精神的にも身体的にも外界にほとんど応答できない状態がみられ、このような病状又は状態像にある精神障害者は、対人接触等の日常社会活動のみならず、摂食、排泄、睡眠等の生命維持に必要な活動を行うことができない結果、又は突発的な衝動行為を行う結果、自傷行為又は他害行為を行うことがある。 |
意識障害 | 周囲に対して適切な注意を払い、外界の刺激を的確に受けとつて対象を認知し、必要な思考及び判断を行つて行動に移し、それらのことの要点を記憶に留めておくという一連の能力の全般的な障害がみられ、このような病状又は状態像にある精神障害者は、見当識の障害を伴う結果、自傷行為又は他害行為を行うことがある。 |
知能障害 | 先天性若しくは幼少時発症の脳障害により知能の発達が障害された状態又は成人後に生ずる器質的脳障害により知能が低下している状態にあり、周囲との意志の疎通や外界に対する感情の表出等の障害がみられ、このような病状又は状態像にある精神障害者は、突発的な衝動行為等を伴う結果、自傷行為又は他害行為を行うことがある。 |
人格障害 | 知能にほとんど欠陥はないが、人格構成要素の不均衡又は人格全体の異常等のために、本人が悩み又は他人が悩まされ、そのため個人あるいは社会に対し対立するに至るような人格の病的状態がみられ、このような病状又は状態像にある精神障害者は、周囲との意志の疎通や外界に対する感情の表出又は内的葛藤の処理が障害されやすいことに起因する適応障害が顕著な場合、自傷行為又は他害行為を行うことがある。 |
右側の列には、左の病状の場合、こういう理由で、「自傷行為又は他害行為を行うことがある」と書かれている。しかし、残念ながら、精神科の場合、症状を数値化できないので、当てはまるかどうかは、どうしても観察者の判断にゆだねられます。そこに判断者の感情が入ります。
第二
法第二十九条の二第一項の規定に基づく入院に係る精神障害者であり、かつ、直ちに入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人を害するおそれが著しい旨の法第十八条第一項の規定により指定された精神保健指定医による判定は、診察を実施した者について、第一の表に示した病状又は状態像により、自傷行為又は他害行為を引き起こすおそれが著しいと認めた場合に行うものとすること。改正文 (平成七年六月二八日厚生省告示第一三二号)・・・
措置入院の導入でもっとも多いのが、23条警察官通報であるが、厚生労働省から、そのガイドラインが出ています。かなり、具体的に警察官の行うことが書かれています。
時間軸の問題については、どうでしょう? 極端な場合を考えてみます。誰でも死ぬまでには、自傷他害を起こす確率はすごく高いでしょう。だから、20歳の人をみた場合、時間の制限を入れなければ、自傷他害のおそれが高いといえましょう。著しく高いともいます。
だから、常識的に考えれば、短時日のうちに、自傷他害行為を起こす可能性があるか、ないかでしょう。しかし、その時間は判定者によって異なるでしょう。今日なのか、数日以内か、1週間か、1か月か?
この判定材料には、その場の状態像があります。非常にイライラしていて、現症からすぐにも問題を起こしそうな場合があります。一方、入院になるのが嫌で、それを隠そうとする場合もあります。冷静を装い、その後に問題を起こすこともあります。したがって、現症だけでは判断できないことになります。
もう一つは、経過からどの程度問題が繰り返されてきたかです。そういう過去の病歴。
また、治療状況もあり翌日に、受診できる。あるいは呼び出された親が徹底的に管理できるとかである。そういう治療状況。これで急速に病状が改善するということは少ないでしょうが・・・
原因が継続しているか。外因が継続しているかです。精神症状があるが、交際者とのもめ事が誘因になっている場合、問題が解決せず継続しているか、あるいは、何らかの経緯で問題が解消されたとしたら、そういう状況が判定に影響します。(2025年1月)