偉人は地元で受け入れられない
複数の偉人が、同じ法則について語っていますのでご紹介します。
「預言者故郷にいれられずといわれます。しかし、預言者は、きまってその公的生涯を、自分の故郷で開始しているという悲しい事実があります」。
と語っているのは、内村鑑三です。

イエスはこれらの譬(たとえ)を語り終えてから、そこを立ち去られた。そして郷里に行き、会堂で人々を教えられたところ、彼らは驚いて言った、「この人は、この知恵とこれらの力あるわざを、どこで習ってきたのか。
この人は大工の子ではないか。母はマリアといい、兄弟たちは、ヤコブ、ヨセフ、シモン、ユダではないか。またその姉妹たちもみな、わたしたちと一緒にするではないか。こんな数々のことを、いったい、どこで習ってきたのか」。
こうして人々はイエスにつまづいた。
しかし、イエスは言われた。「預言者は、自分の郷里や自分の家以外では、どこでも敬われないことはない」。そして彼らの不信仰のゆえに、そこでは力のあるわざを、あまりなさらなかった。(マタイ 13の53)
内村鑑三は、著書である「代表的日本人」で5人の偉人を挙げていますが、代表的日本人には各国語訳があります。というか、原著は英語でかかれていたかもしれません。
ある米国大統領は、尊敬する日本人は? と日本人の記者に聞かれて、「Youzan Uesugi」と答えたそうです。上杉鷹山は、「代表的日本人」の中で2番目に挙げられている偉人です。財政再建型偉人と言ってもいいかもしれません。質問した記者は鷹山のことを知らなかったようです。鷹山の妻には知的障害がありました。
この大統領の名前は、ジョン・F・ケネディです。兄とともにハーバードを出ていますが、優秀な兄をベトナムで失っています。ジョンは確か学業成績は兄に比べると平凡だったはずです。2025年の夏、トランプとハーバードが対立しています。
さて、鷹山は、殿様になってはじめて江戸から領地(米沢)に赴いたのです。儒教をベースにして、どうしたら、貧困に負けない経済を作れるかに命を懸けました。見識にしろ現実的な実行力にしても稀有な人間でしたが、地元では反鷹山派が抵抗を続けて、殿なのに彼を受け入れないばかりか、強硬手段にまで出ています。地元の人は、自分の考えから抜けられず、鷹山のことがわからなかったのです。
鷹山は、やむなく、正当な手順を踏んで、お家取り潰しや切腹などでけじめをつけています。
本筋にもどりましょう。鑑三が挙げた5番目の偉人は、日蓮です。そして、地元で受け入れられなかったのは日蓮です。
千葉県小湊のあばら家で育った日蓮は、鎌倉、叡山、奈良で15年間の修業をしたのち、1253年の4月、故郷の小湊に帰ってきたのです。彼の根本の問題は、仏教になぜ、たくさんの流派があるのかということです。また、どの経を重視すればいいのかです。彼の結論は、仏陀が生きていた間に書かれた最後の経である法華経を信じることでした。南無妙法蓮華経です。

その小湊の寺で、地元の人を集めて日蓮が講話をすることになりました。
日蓮は、真言宗も浄土宗も禅宗も間違っているとはっきりと語ります。しかし、話を聞きに来ているのは、それらの宗教を信心している人たちです。その人たちは日々の苦しい生活の中で、自分の宗教を頼りにしてきました。日蓮の主張は、それまでの僧の講話ではありえなかった他の宗派への痛烈な批判です。
憤慨した聴衆から怒声がわきおこり、厳罰に値するという意見もありました。地頭は、日蓮が寺から出ればすぐに殺そうとも思ったようです。日蓮が修行を始めた寺のやさしい老師は、自分の弟子はいつかは後悔し、以前の正しい教えに戻り、夢から覚める時がくると思い、2人の弟子に安全に日蓮を連れ出すように命じました。
ただし、老師も日蓮は間違っていると思っていたわけです。このように故郷にいれられなかった日蓮は鎌倉に直行して、松葉ヶ谷(まつばがやつ)に草庵を建てて、世を正す仕事を始めたといいます。たった一人で。

二宮金次郎も同じようなことを語っていますので紹介します。
「尭(ぎょう)も舜(しゅん)も一心不乱に親に仕え、人を憐み、国のために尽くしただけだが、それを他からその徳をたたえて聖人といったのだ。ことわざに『聖人聖人というは誰のことと思いしに、おらが隣の丘(孔子)がことか』ということがある。実際にそういうものだ。私が昔、鳩ケ谷宿を通った時に、その宿には富士講で有名な三志という人がいるので、三志といってたずねたが誰も知る人がいない。よくよく問い尋ねたところ『横町の手習師匠の庄兵衛のことだろう』と言われたことがある。これと同じだ」。(二宮翁夜話)
二宮金次郎の初めの妻は、金次郎のことが理解できなかったようであり、離縁しています。ソクラテスの妻クサンティッペも同様でしょう。社会の中の金次郎、ソクラテスではなくて、妻にとっては自分にとっての、夫としての金次郎、ソクラテスが重要だからでしょう。その点、安倍首相の妻昭惠さんは、社会の中の夫をもう少し理解していたかもしれません。政治家の妻だからかもしれません。
おそらく、内村鑑三、二宮金次郎がこのようなことを強調しているということは、彼らも身近な人には理解されなかったり反発されたりして苦しんだという体験があるのでしょう。二宮金次郎には、豊田正作という邪魔ばかりする人もいましたし。人間は嫉妬もありますし、身近な人が自分より偉い人となると、なかなか受け入れにくいものです。つまり、偉人が地元で受け入れらえないという法則には、人間の普遍的な心理が現れているものとも考えられましょう。
身近な人を高く評価するということはなかなか難しいかもしれませんが、その人の力を確実に高めることになりますので、ぜひともそうできるようになりたいものです。2025年8月