自殺者数の減少は何に由来するのか?

 我が国の自殺者数は、先進国の中では多いほうですが、それでも幸いなことに減ってきています。日本で自殺者数が減っているのは、何に由来するのでしょうか。

 日常の臨床経験から、抗うつ薬は効果があるなという確かな感じ(エビデンスとは別に)があります。特にSSRIなどの新しい抗うつ薬が出てきてから、その感覚はさらに高まっています。もちろん、完全ではありませんが、ある程度の効果が得られることが多く、最悪の事態は回避できるのではないかと思うことが多いです。

 では、自殺者数の年次推移のグラフをみてみましょう。厚生労働省のグラフをそのまま持ってきました。

 次に抗うつ薬の売り上げの方をみてみましょう。富士経済のページからいただきました。

 どうでしょう。2つのグラフを見てみると、この10年自殺者数は減少し、抗うつ薬の売り上げは増えています。ジェネリックが出てきたりということもあり数字を読み取るのはは難しいのですけれども、これらの数字を統計学的に処理すると、有意な相関関係のあることが実証できるでしょう。(たぶん)。(交絡因子があるかもしれません)正確な数字が簡単には分からない(特に抗うつ薬の売り上げとか使用量とか)のが残念なところです。きっと、厚生労働省とか、研究者がすでに検討しているかもしれません。

 さて、重要なことを申し上げます。自殺は減っているということを会合等で聞きます。その時に言われるのが、「だが、10代の自殺、若者の自殺は減っていません」と言われます。

 ここで重要なのは、原則として、抗うつ薬は未成年には有効性がないなどの理由から使えないことです。だから、10歳代の自殺は減らないのではないでしょうか。誰か研究者に詳しく研究してもらいたいところです。この事実も、自殺数の減少に抗うつ薬が関与しているということを示唆しているように思います。

 この10年で、多くの精神科医が抗うつ薬の使い方を習熟してきたと思われます。統合失調症に用いる抗精神病薬の使い方とは少し異なり、効果が出るまで十分量を用いるとか・・・学んできました。それが、自殺数の減少に反映されているのかなと思います。

 また、多くの方たちが気軽に精神科にかかれるようになったこと、いや、思い切ってかかって下さるようになったことが大きいと思います。敷居を低くした診療所の先生方の努力もあると思います。

 診療所の数が増えたからうつ病が増えたとか、抗うつ薬の売り上げが増えたとか、抗うつ薬が増えたからうつ病が増えたなど、マイナスにとる考えの人もありますが、それは違うように私は思います。うつ病の方が我慢せずに精神科医にかかり、抗うつ薬を使えるようになったことはたいへんな進歩なのではないでしょうか。それでどれだけの人が死なずに済んだかと思います。

 真実は、本当に分かりにくいもので、この解釈も絶対に正しいとは言いませんが、どうぞ、早めに精神科医に相談してもらいたいと思います。私ども医師の側も、正しい認識を高めないといけないと思います。