精神科の安価すぎる薬

 抗精神病薬であるハロペリドール0.75mg錠は、1錠6円。3mg錠でも6.4円。先発品のセレネースだと、それぞれ 7.9円と10.1円の薬価である。1日3mgから9mgくらいで治療は行われるから、1日18円から30円くらいで済む。これは、企業に入るお金だ。後発品を用いれば1日20円でいい。

これでも安すぎるが、自立支援法を用いれば、1割負担なので、1日1.8円から3円の薬代だといえる。患者さんの支払う薬代は、1か月60円から100円。

 ハロペリドールは、発売されてから60年ほどたつが、未だに統合失調症や躁病に効果があり、使用されている。1か月100円の金額は間違ってはいないか? なぜなら、統合失調症は生死にかかわる病気であり、まれに他害におよんだりとてつもない事件になることすらある。

非常に慎重な治療を必要とするが、1か月100円しか薬代がかからないというのは、どうみてもおかしくないか?

治療の意義の大きさに比べて、薬代が安すぎる。 このアンバランスに驚く。

コントミンでも同じだ。自立支援法を使ったときには、同じような驚くべき安い薬代で治療ができる。

 ハロペリドールもコントミンも最近発売の薬剤に比べて副作用は多いという欠点はある。しかし、副作用は人にもよるし、効果は十分にあり、重篤な興奮などの陽性症状や精神遅滞を伴う方の治療には、最新の非定型薬よりむしろ優れていると感じることも多い。 そんな安い薬でも中断してしまえば、大変なことになる。時には取り返しのつかないことにもなる。その薬が1か月100円!

 一方、最新の薬はいかほどなのか? 最高容量まで使用しても、1日の薬代は、ラツーダ錠80mg 457.7円、ロナセンテープ40mg2枚で925.4円、レキサルティ2mg469.1円、インヴェガ錠6mg2錠で936.6円。これは、製薬会社に入るお金。支払いは、自立支援法を用いれば、その10分の1だ。病気が病気なので、高いとは思わない。

病院の取り分はどうか? 外来では、処方箋代だけだから高い薬でも安い薬でもかわりない。入院だと、むしろ、まるめの病棟(薬剤費込み)では高い薬だと損をする。

 これで言えることは、薬の実際の効果より、古いものになるほどかなり低く価格が設定されてしまっているということだ。医学的な価値が正しく評価されていない。これでは、薬を製造する気もなくなるだろう。しかし、この50年の間に、数多くの抗精神病薬が製造されてきた。セレネース、コントミン、レボトミンなどは、その中で奇跡的に生き残ってきた非常に優れた薬である。存続するために、もう少し高い価格設定にしてもらいたい。

また、依存性の高い睡眠薬については、患者さんの負担を増やしてもいいのではないか。その場合、薬価を上げる必要はないだろう。難しいのかもしれないが。

 抗うつ薬はどうか? セルトラリンを1日最大量使っても28.9円だ。28.9円でもやめれば自殺する人が出てくるだろうし、実際、このような抗うつ薬は、どれだけうつ病の人を減らしてきたかわからない。自殺者数の減少に相当貢献しただろう。やはり、安すぎて製造中止になったら困ってしまう。


※ 医学的、社会的な薬の価値と、薬価との間に乖離がある 統合失調症や深刻なうつ病が、1日30円の薬代で治る病気であるとは考えられない。