優しくありなさい 偉人の名言? 1

優しくありなさい。あなたの出会う人々は皆,困難な闘いに挑んでいるのだから」という題名の書籍を以前に購入しました。人は,どんな人にも,いつでも優しくあるということは難しいのは事実だと思います。何か他者の弱い面に対して優しくいられない,いらいらとした気持が湧いてきてしまうということがあるかもしれません。
 私たちは,その人が苦しんでいる,何とかコントロールしようと必死に努力していることや,その人の置かれたどうしようもない状況ということを忘れがちかもしれません。そんな時にこの言葉を思い出したいものです。

 この本は100の名言を集めているのですが,この名言がこの本のタイトルにもなっています。つまり,著者によって,名言中の名言とされているわけです。この名言の出典ですが,プラトンとされていて,巻末に,プラトンの「ソクラテスの弁明・クリトン」と「国家」が出典として記載されています。

 良い言葉なので,よく調べて病院の朝礼で紹介しようと思い,その前後の文脈も知りたいと思いました。そのため,出典とされる2書籍を読んでみました。しかし,ざっとみたところ,この言葉が見つからないのです。

というわけで,この問題にがぜんやる気がでてきてしまいました。そもそも,プラトンの「ソクラテスの弁明」や「国家」の中では,プラトンがソクラテスの口を借りて語るという形式になっていますが,「・・・しなさい」などの命令調の表現はほとんどないか,まったくないのです。だから,「優しくありなさい・・・」は,どうもプラトンやソクラテスが言いそうなことではないのです。

 そこで,わたしは誰かに確かめたいと思いました。まず,この本の末尾にはこの大手出版社の編集部の電話番号が記載されていましたので,さっそく電話してみました。電話に出た編集部の男性は聡明そうな方で,私が精神科医師であること,この本を購入したこと,この前後の文脈が知りたいので,どこにこの名文の記載があるのか教えてほしいことを伝えました。その男性は,担当した編集者が不在なので後で聞いてお返事しますと答えてくださいました。そして,病院の電話番号やメールアドレスを伝えました。

 数日後にメールが来ました。その電話に出てくださった男性の方で,それはプラトンの名言で,ほかのページにも載っているなどの一般的なお答えでした。私は,その辺のことは知っていましたので,出典にある「ソクラテスの弁明・クリトン」と「国家」をざっと読んでみましたが,この2書にはその名言がみつからない旨をお返事しました。するとまた,それに対する返信が届きました。ちょっとびっくりしたようすでした・・・・

 編集者からは,「 タイトルの言葉ですが、「プラトンの格言」となります。Be kind, for everyone you meet is fighting a harder battle.です 」というお返事をいただきました。それに対して,出典とされている「ソクラテスの弁明・クリトン」,「国家」の中にはなさそうなんですがと返信しました。すると,また,すぐにお返事いただき,「ジャストな答えができなくて申し訳ありません。・・・・著者に会ったら聞いてみます」という誠実なお答えをいただきました。お願いしますとお答えしました。

 さて,出版社ではよくわからなかったので,この名言が誰の言葉なのか,そして,その前後の文脈から何を伝えたかったのかを知りたいという関心から,いくつかの方法を考えてみました。ネットで名言の出所を探る。プラトン専門家に聞く。プラトンの本を全部読む。著者にアタックする,などが考えられました。

 都立の図書館に足を延ばし,「名言集」を調べてみました。プラトンの名言だとわかればそれでいいし,他の人の言葉とわかればそれもいいと思ったわけです。

斉藤正直編「現代に生きる世界名言集」あかつき書房昭和37年には,プラトンの名言が5つありましたが,「優しく・・・」はありませんし,他の著者の名言にもありませんでした。岩波文庫編集部「世界名言集」2002年には,プラトンの名言が11個載っていましたが,その中にもなし,他の著者にも似たような言葉はありませんでした。

やはりプラトンの言葉ではないことはこの時点で確かのような気がしてきました。さあ次はプラトン研究者にアタックします。