精神保健法でいう「信書」とは何か

 精神科病院での行動制限については、精神保健福祉法によっていろいろなことが定められています。信書の制限についても言及されていますが、この信書という言葉がひっかかりますので調べてみました。

(処遇)
精神保健福祉法第三十六条   精神科病院の管理者は、入院中の者につき、その医療又は保護に欠くことのできない限度において、その行動について必要な制限を行うことができる。
2 精神科病院の管理者は、前項の規定にかかわらず、信書の発受の制限、都道府県その他の行政機関の職員との面会の制限その他の行動の制限であって、厚生労働大臣があらかじめ社会保障審議会の意見を聴いて定める行動の制限については、これを行うことができない。
3 第一項の規定による行動制限のうち、厚生労働大臣があらかじめ社会保障審議会の意見を聴いて定める患者の隔離その他の行動の制限は、指定医が必要と認める場合でなければ行うことができない。

 社会保障審議会は、年に平均1回程度、1時間くらいの会議が厚生労働省で開かれており、議事録の中の「精神」という言葉を検索してみると、もっとも最近「精神」の言葉が出てきた会議は、2012年4月25日の第24回社会保障審議会のようです。この時は、精神障害も含めた障害者総合支援法について、話し合いというか報告というかがなされています。それ以降「精神」という言葉は現在(2021年)に至るまで出てきていません。社会保障審議会で精神科のことが議題になるのは10年に1度。とすれば、「厚生労働大臣があらかじめ社会保障審議会の意見を聴いて定める行動の制限」は変わらないでしょうね。

 そして、その具体的内容については、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十七条第一項の規定に基づき厚生労働大臣が定める規定」に信書に関する事項があります。

(一)患者の病状から判断して、家族その他の関係者からの信書が患者の治療効果を妨げることが考えられる場合には、あらかじめ家族等その他の関係者と十分連絡を保って信書を差し控えさせ、あるいは主治医あてに発信させ患者の病状をみて当該主治医から患者に連絡させる等の方法に努めるものとする。
(二)刃物、薬物等の異物が同封されていると判断される受信信書について、患者によりこれを開封させ、異物を取り出した上、患者に当該受信信書を渡した場合においては、当該措置を採った旨を診療録に記載するものとする。 

 「当該主治医から患者に連絡させる」とは、どういう意味か?非常にわかりにくいですね。「管理者が主治医にそろそろ患者に伝えろと言う」ことなのか、「主治医が患者に親に電話してください」ということなのか。

 聞きなれない用語をコロナ下でよく耳にします。「緊急事態宣言を発出」などという言葉があります。出発でなく発出。だが、発出は出発と同義の場合もあるよう。似ている用語で、発令は、法令や指令を出すことに限定されるようです。ついでに、「核兵器禁止条約の発効」。

信書の発受」、「信書を発信する」、「信書を受信する」も普段はなかなか使用しない言葉です。「手紙を出す」とどう違うのでしょうか。発信は、電信や電波が初めで、電報、郵便につながったように考えるのが妥当な感じもします。形のあるものより、ないものが先だったのではないでしょうか。

問題は、信書です。あまり使いませんね。信書という言葉は。しかし、入院患者さんに説明できなくてはなりません。信書を調べてみると、

郵便法、信書便法によって定められているとのことです。

信書」とは、「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」と郵便法及び信書便法に規定されています。「特定の受取人」とは、差出人がその意思又は事実の通知を受ける者として特に定めた者です。「意思を表示し、又は事実を通知する」とは、差出人の考えや思いを表現し、又は現実に起こりもしくは存在する事柄等の事実を伝えることです。「文書」とは、文字、記号、符号等人の知覚によって認識することができる情報が記載された紙その他の有体物のことです(電磁的記録物を送付しても信書の送達には該当しません。)。総務省のホームページには以下の分類があります。

信書に該当する文書

  • ■書状
  • ■請求書の類
    【類例】納品書、領収書、見積書、願書、申込書、申請書、申告書、依頼書、契約書、照会書、回答書、承諾書、◇レセプト(診療報酬明細書等)、◇推薦書、◇注文書、◇年金に関する通知書・申告書、◇確定申告書、◇給与支払報告書
  • ■会議招集通知の類
    【類例】 結婚式等の招待状、業務を報告する文書
  • ■許可書の類
    【類例】 免許証、認定書、表彰状
    ※カード形状の資格の認定書などを含みます。
  • ■証明書の類
    【類例】印鑑証明書、納税証明書、戸籍謄本、住民票の写し ◇健康保険証、◇登記簿謄本、◇車検証、◇履歴書、◇給与支払明細書、◇産業廃棄物管理票、◇保険証券、◇振込証明書、◇輸出証明書、◇健康診断結果通知書・消防設備点検表・調査報告書・検査成績票・商品の品質証明書その他の点検・調査・検査などの結果を通知する文書
  • ■ダイレクトメール
    • 文書自体に受取人が記載されている文書
    • 商品の購入等利用関係、契約関係等特定の受取人に差し出す趣旨が明らかな文言が記載されている文書

信書に該当しない文書

  • ■書籍の類
    【類例】新聞、雑誌、会報、会誌、手帳、カレンダー、ポスター、◇講習会配布資料、◇作文、◇研究論文、◇卒業論文、◇裁判記録、◇図面、◇設計図書
  • ■カタログ
  • ■小切手の類
    【類例】 手形、株券、◇為替証書
  • ■プリペイドカードの類
    【類例】 商品券、図書券、◇プリントアウトした電子チケット
  • ■乗車券の類
    【類例】 航空券、定期券、入場券
  • ■クレジットカードの類
    【類例】 キャッシュカード、ローンカード
  • ■会員カードの類
    【類例】 入会証、ポイントカード、マイレージカード
  • ■ダイレクトメール
    • 専ら街頭における配布や新聞折り込みを前提として作成されるチラシのようなもの
    • 専ら店頭における配布を前提として作成されるパンフレットやリーフレットのようなもの
  • ■その他
    ◇説明書の類(市販の食品・医薬品・家庭用又は事業用の機器・ソフトウェアなどの取扱説明書・解説書・仕様書、定款、約款、目論見書)、◇求人票、◇配送伝票、◇名刺、◇パスポート、◇振込用紙、◇出勤簿、◇ナンバープレート

Q&Aに面白いものをみつけました。

Q5 電磁的記録物はなぜ信書ではないのですか

 電磁的記録物(例:情報をCD、DVD、USBメモリ等に電子データとして記録したもの)は、その物を人が見るだけでは情報の内容がわからないことから、「文書」とはならないため、信書に該当しません。
 ※文書とは、文字、記号、符号等人の知覚によって認識することができる情報が記載された紙その他の有体物のことをいいます。

 ではCDをケースに入れて切手を貼って出すとすると、紙の内容と同じであっても信書にならない。ということは、それは精神保健福祉法によって規定されない。ということは発信が必ずしも保障されないということか?これは、信書ではないので、出すことはできませんと言ってもよいということか。

Q4 封筒に「親展」と記載された場合はすべて信書になるのですか

 封筒に「親展」の記載があるからといって必ずしも信書に該当するとは限りません。信書に該当するか否かは、その封筒に収められた文書の内容が、特定の受取人に対して、意思を表示したり、事実を通知するものであるか否かによって判断されます。

 しかし、「親展」というのも不思議な言葉ですね。親は自らという意味があるそうです。展は展開、つまり、手紙を開封する。自ら開封するという意味で、あて先にある人が自分で開封してくださいという意味でしょう。

 ここに親書という言葉が出てきてややこしくなります。自らの意味で用いられる時の例だというのです。ウィキペディアによれば、親書(しんしょ)とは、国家元首政府首脳が相手国の元首や首脳に出す文書のことを指す。送り手の署名が入るのだそうです。親書には、就任祝いや災害見舞いなど儀礼的な内容である場合や、相手国に対して自国の政策意図や要望を説明する場合があるとのこと。

では、「手紙」とは何でしょう?信書と違うのでしょうか? ウィキペディアで調べてみると、「手紙とは、特定の相手に対して情報を伝達するための文書。信書、書簡・書翰、書状などとも呼ばれる」。

ということは、手紙=信書でだいたいいいということですね。「信書を発信する」は、「手紙を出す」、「信書を受信する」は、「手紙を受け取る」で結局はよいのではないでしょうか。2021年1月19日