血液検査で精神疾患がわかる?!概略

 統合失調症や躁うつ病などの内因性精神疾患は、検査では診断できないとされてきました。今まで、統合失調症のいろいろな仮説が提示されましたが、原因なのか、結果なのか、中間段階に現れる現象なのかわかりません。

 多くの精神科医と同様に、私もこの問題に興味を持ち、臨床の傍ら、どういうことが原因かと独自に調べてきました。

 統合失調症の認知機能は、予後や成因にかかわっていると言われていました。そこで、知能検査WAIS-Ⅲが統合失調症でどうかと調べてみたところ、ほとんどの患者さんで知識とかは保たれているのに、処理速度が低下していました。過去の研究結果とほぼ一致しました。

 ですから、患者さんのWAIS-Ⅲの結果を見ると、その病気が後天的なのか(統合失調症など)先天的(知的障害)なのかわかるわけです。知識はいいのに処理速度が低い場合は、勉強は頭に入っており、それは保たれているのに、おそらく処理速度が後天性に低下したとみるわけです。知的障害では普通逆です。

 さて、このWAISの結果と血液検査との間に関係がないかと調べてみたのです。すると、認知機能が高いとアルブミンが高い、認知機能が低いとグロブリンが高いなどの関係がありました。特に、男性の統合失調症の患者では、A/G比とWAISの間に有意な正の相関関係が明確でした。つまり、A/G比が高いほど、男性の統合失調症では、認知機能が良かったのです。認知機能が良いということは社会復帰ができやすい、その可能性が残されているということになります。

 また、入院中の患者さんは入院時と、入院後は月に1回、血液検査を行い、医師会メディカルセンターで検査してもらっていますが、多くの検査項目の中で、アルブミンだけが、標準値と比べて低いことが多かったのです。

 そして、人間ドックの健常者と比較したところ、統合失調症の入院時のアルブミンは、男女とも健常者と比較して有意に、各年代で低下していました。アルブミンは健常者でも年齢と共に低下していくのですが、統合失調の場合、健常者より平均20年早く低下していました。これは、統合失調症の患者さんでは栄養状態が悪いということでしょうか?そうではありません。炎症でないかと思っています。最近、うつ病にせよ、炎症説というのが隆盛です。

 なぜ炎症かというと、これも精神科で遭遇する悪性症候群なのですが、アルブミンが著しく低下して褥瘡ができます。これを促進するのが、サイトカインだといわれていました。最近、炎症性サイトカインであるインターロイキン6が保険で検査できるようになり、この秋に調べた悪性症候群の患者さんでIL-6が正常上限の4倍以上になっていて驚きました。そして、悪性症候群の回復と同時に正常化していました。

 同様に、興奮とかそう状態とか昏迷とかで入院してくる患者さんに最近IL-6を検査しているのですが、だいたい、入院時は正常上限より高く、徐々に正常化していきます。

 IL-6は、炎症反応としてアルブミンを低下させ、形質細胞を活性化させてグロブリンを高めます。同時に脳細胞に炎症を起こします。ここで、かなりのことが自分なりに納得できました。来年にかけて、IL-6とアルブミンとグロブリン、そして、好中球とリンパ球の比も精神疾患の重症度と関係します。これらを調べつつ、臨床に生かしていきたいと思います。