Ⅵ.身体拘束を相関関係から調べる

 入院数当たりの拘束数が何と相関するか調べてみました。表には示しませんが、病床数あたりの隔離数、保護室÷病床数、カメラ付き保護室÷病床数、常勤精神科医数÷病床数、常勤指定医÷病床数、常勤薬剤師÷病床数、常勤看護師÷病床数、常勤PSW÷病床数に有意な相関関係(ピアソン)はありませんでした。

 医師や看護師、精神保健福祉士を充実させれば、拘束は減らせると考えられますが、都道府県レベルでみるとそうではないのです。隔離室を充実させても有意な効果はこの切り口では見られません。

 次に入院数当たりの拘束数と患者の年代との関係をみてみました。すると、20歳未満の女性、20-40歳の男性、20-40の女性、40-60の女性はp<0.05で、有意に相関があることがわかりました。これらの性、年齢の患者が多いと拘束率が高くなります。しかし、相関係数が0.3程度の弱い相関です。若いエネルギーのある患者さんで精神病症状を呈すれば、老齢の方に比べて拘束をしなければ安全が保てないということはありそうです。なお、もっとも拘束の少ない岡山県の入院届の平均年齢は、唯一70歳を超えています。年齢も影響しているのかもしれません。拘束しない認知症治療がうまくいっているのかもしれません。

 また、75歳以上の男性÷合計入院数は、p<0.01で20-60歳の男女の入院と強い負の相関があります。相関係数は-0.6から-0.9とかなりのものです。同時に、75歳以上の女÷合計入院数は、p<0.01で20-75以上に渡る-04から-0.9の強い負の相関関係があります。つまり、後期高齢の男性の患者さんの入院が多い都道府県は、若年から中年の男女の入院が少なく、後期高齢の女性が多く入院する都道府県では、男女とも若年から中年、高齢の男性の入院も少ないのです。拘束率の少ない県では、高齢の入院が多く、拘束を要する率の高い若年者が少ないということがあります。

 次に人口当たりの拘束数を措置男子÷人口、医保÷人口など入院形態別に調べましたが、男女とも相関は認められませんでした。次にICDのFコードとの関連を調べましたが、これも有意な相関はみられませんでした。

 人口当たりの拘束数を人口当たりの入院患者数、隔離数、措置数、医療保護数、任意数、保護室数、常勤精神科医数、同指定医数、同薬剤師数、同看護師数、同PSW数との関係を調べましたが、p<0.05、r=0.254で人口当たりの入院数、p<0.01、r=0.408で医療保護入院数と相関がみられました。人口当たりの入院数や医療保護入院数が多ければ人口当たりの拘束率が高まります。職員数は、やはり拘束率に影響しません。充実している都道府県が人口当たりの拘束が少ないとはいえないのです。他の要因の方が強く働くのです。

 人口当たりの医師数、看護師数、薬剤師数、PSW数の同志の間には強い相関があり、これらのどれかが多い都道府県はほかの職種も充実しているという傾向が見られます。しかし、拘束率とは相関がないのです。つまり、充実した医療体制と拘束率は都道府県レベルでみる限り関係ないのです。繰り返しお話ししますが、人では補えない要因があるらしいです。

まとめ


・病床当たりの拘束数は、常勤医、指定医、看護師、PSWの数とは有意な関係がありません。
・人口当たりの拘束数も人的な配置との関係が都道府県レベルでは見られません。
・設備や人的資源による影響は、予測より少なく、拘束には他の要因が関与しているようです。